少年犯罪の傾向と現状。犯人はどのように裁かれるのか?

未成年者が罪を犯す少年犯罪。未成年の少年・少女が犯人の殺人事件などはマスコミでセンセーショナルに報じられることも多く、不気味で怖い、というイメージを持つ人も多いのではないのでしょうか。

また、罪を犯した未成年者と成人では裁かれる制度が異なります。

今回は少年犯罪の現状と未成年者が罪を犯した場合、どのように裁かれるのかをお伝えします。

少年犯罪とは何か?

少年犯罪とは一般に20歳未満の未成年が起こした犯罪のことを指します。

「非行」とも呼ばれ、20歳未満の犯罪は重大な事件でも「非行」とされます。少年犯罪は少年法によって裁かれます。

14歳未満の場合は、刑事責任がないとされ、児童福祉法によって処分が決まります。

少年犯罪の現状と傾向

少年犯罪は増えている、凶悪化している印象を持っている人もいるかもしれませんが、少年犯罪は減っています。

現在の少年犯罪の傾向についてもくわしく見てみましょう。

少年犯罪は減っている

少子化もあり、少年犯罪は減り続けています。

令和元年版「犯罪白書」によると、平成期の少年による刑法犯・危険運転致死傷・過失運転致死傷等の検挙人員(触法少年の補導人員を含む)は、平成24年から戦後最少を記録し続けています。

そして平成30年は戦後最少を更新する4万4,361人(前年比11.6%減)でした。凶悪化もしておらず、一番多いのは万引きなどの窃盗です。

最近の少年犯罪の特徴

昔は家が貧しく、お金に困って万引きするなど理由があることが多かったのですが、現在は「楽しいから」と特に理由なく、犯罪そのものを楽しむ「遊び型非行」が増えています。

また、「分かりにくさ」が特徴の一つです。1980年代の不良、非行少年の代名詞は「暴走族」でしたが、今ではほとんど見られなくなりました。

一方でパソコンや携帯電話が普及し、ネットでのいじめなどが問題になっています。

また「普通の子」、「よい子」と思われてきた子どもがキレて凶悪犯罪を起こすことも。

保護者や養育を担う者から大切にされ、一見すくすくと成長しているように見える子どももいます。

しかし、挫折感を味わったり、大きなストレスに直面したようなときに、社会への報復として凶悪事件を起こし、センセーショナルに報道されることもありました。

昭和生まれの方は記憶にあるかもしれませんが、2000年前後に連続的に起きた少年による凶悪犯罪は、少年法の厳罰化を促す結果となりました。

当時、共感性の乏しさや対人関係の未熟さが指摘され、発達障害との関連で非行を論じる説もマスコミに登場し、心を痛めた親御さんもおられました。

しかし、忘れてならないのは、子どもの育つ環境や社会状況が少年の非行と大きく関係していることを忘れてはいけません。

少年非行については、厳罰化が進む一方で、非行を防止する活動も熱心に行われるようになっています。

また、インターネットや携帯電話の普及に伴い、SNSによるやり取りやインターネットゲームに熱中する者も増えており、外で 非行をするよりも家でゲームをする子どもが増えているようにも思われます。

また、いじめのあり方も変化しているように思われます。

以前は身体的な暴力も多かったのが、今は精神的に追い詰めるようなものが増えているのではないでしょうか。

ネット上のいじめなどは、表面化しにくいため、何か大きな事件に発展した後に発覚するようなこともあります。

ゲームでは、いくら自分のキャラクターや相手のキャラクターが死んだとしても、すぐに復活します。ゲームの中の出来事は、生身の人間の反応ではないので、どこまで行っても平気です。

そんな感覚で生身の人間を傷つけたらどうなるのでしょう。ゲームの世界にのめり込む人が増えると、実際に行動を起こしたときに問題が大きくなることが目に見えているようです。

非行が減っていると安心するばかりでなく、その先のことも考えていくことが大切になってきます。

ひだかあさん

最近は、外で非行するより家でゲームに興じる子が増えているのではないかと思います。
また、いじめという非行としては認定されにくい形での問題が増えているのではないかという気がします。
ネット上でのいじめなども、非行とは認定されにくいのではないでしょうか。
こうした問題によって傷つけあうことがないような工夫もしていくことが大切ですね。

少年犯罪の手続きと処分

非行少年は、少年法の上では、犯罪少年、触法少年、ぐ 犯少年の3つに分けられます。

非行少年については、こちらで説明しています。

ここでは、それぞれについて手続きの流れについて説明します。

  • 犯罪少年(14歳以上20歳未満の場合)

すべて家庭裁判所に送られるのが決まりになっています。

なお,成人年齢を20歳から18歳に引き下げるという民法の一部改正に伴い,令和3年5月28日に少年法が一部改正され,令和4年4月1日から施行されるようになりましたが,少年法では20歳未満までを少年として取り扱います。

ただし,18歳以上20歳未満の者を「特定少年」としてこれまでとは異なる取り扱いをすることになりました。例えば,これまで16歳以上の少年が故意に人命を奪うような重大な犯罪を行った場合は原則検察官送致されることとなっていましたが,令和4年4月以降はそれに加えて18歳以上の少年,つまり「特定少年」が死刑・無期又は短期1年以上の懲役・禁固に当たる罪の事件についても原則検察官に送致(逆送)されることとなりました。

また検察官に逆送されて起訴された場合は,実名や写真の掲載禁止が解除されることとなりました。

警察で検挙された後、罰金刑以下の軽微な事件は直接家庭裁判所に送られますが、それ以上の刑罰が科される事件については、検察庁に送られます。

大人の事件の場合は検察庁で不起訴処分や起訴猶予になることもありますが、少年事件の場合は検察庁に送られた事件はすべて 家庭裁判所に送られます。

家庭裁判所では、調査後、審判の必要がないと判断すれば審判不開始、審判後に不処分となることもあります。

これは無罪というわけではなく、家庭、学校、地域の援助で更生が期待できると判断された場合で事件の7割を占めます。

残り3割は保護処分。保護処分には

  1. 自宅などで保護観察所の指導を受ける保護観察
  2. 児童自立支援施設等送致
  3. 少年院送致

の3種類があります。その他に、家裁が最終処分を留保し様子を見る試験観察や、次の項目で説明する検察官送致などもあります。

  • 触法少年(14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年)

刑事責任を問えないため、まずは警察から児童相談所へ通報されます。その後、児童相談所で必要と判断されれば家庭裁判所に送られた後、審判で処遇が決められます。

  • ぐ犯少年(20歳未満で一定のぐ犯事由が認められ、将来罪を犯すおそれがある少年)

14歳未満の場合は児童相談所に通報されます。

14歳以上18歳未満の場合は家庭裁判所か児童相談所、18歳以上の場合は家庭裁判所に送られ、処遇が決められます。ぐ犯少年であっても、少年院送致決定を受ける場合もあります。

なお,2022年4月からは18歳以上の「特定少年」については,保護観察は6か月か2年のいずれかであり,2年の保護観察になった場合,遵守事項に対する重大な違反があり,少年院での処遇が必要と認められれば第5種少年院に送られることとなりました。また,「特定少年」についてはぐ犯事件として家庭裁判所の審判に付することができなくなりました。

 

検察官送致(逆送致)

重大な犯罪を起こし、刑事処分に相当すると判断されたり、16歳以上(犯行時)で故意の犯罪行為によって被害者を死亡させたりした場合は検察に戻され、成人と同じように起訴されます。

起訴後、裁判にかけられ、懲役刑や禁固刑の処罰が確定すると少年刑務所で服役します。

14歳以上は刑事的責任が問われることになりますが、16歳未満で懲役刑や禁固刑の処罰が確定した場合は、教育的な配慮が必要な年齢であることから、少年院で受刑者として服役するようになっています。

少年法は甘いのか?

1990年代末から2000年代に「神戸連続児童殺傷事件」(1997年)など未成年者による社会に衝撃を与える事件が起こり、厳罰化を望む世論が起きました。

2000年には刑事事件の責任を問える年齢を16歳から14歳に引き下げられるなど改正もされています。

「少年法は甘い」という声もありますが、それは本当でしょうか。

未成年者による事件はまだ罪を犯していない予備軍ともいえるぐ犯まですべて家庭裁判所や児童相談所に送られ処分が決まります。

大人であれば交通違反や軽微な事件ではは罰金であったり、不起訴で済 んだりすることもありますが、未成年の場合は保護観察などの処分が下され野放しにはならないという面もあります。

また、少年院は24時間が更生教育の対象です。刑務所では、近年は服役中に再犯防止のための矯正処遇を受けることが義務付けられています。

しかし、以前は規則を守って刑務作業を真面目に行い、事件への反省と更生への意欲を示していればそれ以上の指導を受けないで過ごすこともありました。

両方経験した元受刑者からは「少年院の方がきつかった」という声もあるようです。

しかし、今は社会に出てからのことも視野に入れた指導も行われているため、状況は変化しつつあります。

少年刑務所の項目でも説明したように、可塑性や教育可能性の高い26歳未満の若年受刑者に対する教育には特に力を入れて指導しています。

少年刑務所については、こちらで説明しています。

社会に衝撃を与えた有名な少年犯罪

少年法改正のきっかけとなった事件や死刑判決が出た事件を見てみましょう。

  • 1997年、神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗事件)

犯人は14歳の少年。「酒鬼薔薇聖斗」と名乗ったことから酒鬼薔薇聖斗事件とも呼ばれる。5人の小学生が被害に遭い、2人が殺害された。

被害者の遺体の頭部が「声明文」とともに中学校の校門に置かれ、世間を震撼させた。

事件の残虐性、重大性にもかかわらず、当時の法律では16歳未満は刑事罰に問えないこと、審判は非公開で、被害者への情報提供がなされないことに批判の声が上がった。

  • 2004年、佐世保小6女児同級生殺害事件

小学6年生が同級生を学校内においてカッターナイフで切りつけ、殺害した事件。加害者が14歳未満で刑事責任を問えないため、児童相談所に通報されたが、事件の重大性から家庭裁判所に送致された。

14歳未満では刑事責任を問えず、警察に強制捜査権がなく事実認定が難しいことや少年院に収容できる下限年齢も14歳だったことから、重大事件を起こした触法少年を引き受ける児童自立支援施設の負担を指摘する声が出た。

  • 2010年、石巻3人殺傷事件

18歳の少年が元交際相手の家族と友人を牛刀で殺害し、居合わせた男性にも重傷を負わせた殺傷事件。検察官送致され、成人と同様の刑事裁判となった。

2009年に始まった裁判員裁判が適応され、裁判員裁判で裁かれた。少年事件の裁判員裁判で初の死刑判決が出た。

少年法も改正されている

2000年に逆送致の年齢基準が16歳から14歳へ引き下げられました。

14歳から刑事罰が可能になったが、刑務所に入れるより、個別に指導の計画を立て、細やかな矯正教育をする少年院の方が未成年者にはふさわしいのではないかという声もあります。

そうして、少年院の中に第4種少年院という少年受刑者を収容するものが設けられています。

被害者への配慮や情報提供が不十分との批判もあり、少年事件の裁判は非公開でしたが、2000年に犯罪の事実に関する記録を閲覧・コピーができるようになりました。

現在では家庭裁判所の裁判官の許可があれば審判も傍聴できるようになっています。また、被害者や遺族が申し出れば、審判の場で裁判官に意見を述べることも可能です。

2007年には、刑事責任を問えない14歳未満の事件に対する調査の手続きでは、少年に対し逮捕等の身柄拘束はできません。

しかし、押収・捜索等の強制捜査権が警察に認められ、少年院法の改正で少年院に送致できる年齢も14歳からおおむね12歳に引き下げられました。

少年犯罪を減らすために

統計を見ると、少年犯罪は減っており、凶悪化した形跡もありません。

また、非行少年に対する処分は厳罰化する傾向がありますが、厳罰化そのものが少年犯罪の減少につながっているとは必ずしも考えられません。

大切なことは再犯させず、成人犯罪への道を進ませないことです。

未成年者に犯罪者としてのレッテルを張ると社会復帰が難しくなり、再犯する可能性が高くなります。

家庭環境が厳しい中で育つ子どもや発達障害などを抱えている子どももいます。必要な支援を受けられ、いきいきと社会の中で活躍できるチャンスが与えられる社会をつくることが大切ではないでしょうか。

ひだかあさん

非行や犯罪に走った少年を責めるのではなく、そうした少年たちが犯罪に走らないように本人や家族を支援し、更生への道筋を築いていくことが必要です。

参考URL

http://www.moj.go.jp/housouken/houso_hakusho2.html

(法務省、「犯罪白書」)

参考文献

面白くてよくわかる!犯罪心理学(作田明著、アスペクト、2009年)

面白いほどよくわかる!犯罪心理学(内山絢子著、西東社、2015年)

少年犯罪はどのように裁かれるのか。成人犯罪への道をたどらせないために(須藤明著、合同出版、2019年)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です