犯罪者を裁く機関としては、裁判所や検察庁、警察などをイメージする人が多いのではないでしょうか。そうした機関で犯罪心理学の知識は役に立っているのでしょうか?実はそのような機関で働いているのは法律の専門家だけではありません。犯罪心理学を活かせる仕事もあるのです。今回はこうした機関での犯罪心理学関係の仕事についてご紹介します。
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裁判所や警察関係で犯罪心理学関係の仕事とは
裁判と関係する職業として思い浮かべるのは裁判官、検察官、弁護士といった人たちかもしれませんが、司法機関として我が国に存在するのは裁判所のみです。しかし、裁判所の中でも家庭裁判所においては家庭裁判所調査官という立場の人たちが法律のみならず犯罪心理学の知識や技能を生かしながら働いています。
一方、警察は検察庁とともに行政機関に分類されますが、社会の安全を守るための活動を行う中で、裁判の結果にも影響を及ぼすような犯罪の捜査を行います。そうした捜査活動には警察官も関わりますが、ここでも犯罪心理学の専門家が活動しています。
また、犯罪被害者支援についても心理の専門家が関与する場面が増えています。 以下に、裁判所や警察、被害者支援団体における犯罪心理学の知識を生かせる仕事について見ていきます。
1. 家庭裁判所調査官
2. 警察関係
2-1. 警察庁科学警察研究所
2-2. 各都道府県警察科学捜査研究所
2-3. 各都道府県警察被害者相談窓口
3. 犯罪被害者等早期支援団体
ひだかあさんのコメント
家庭裁判所調査官
家庭裁判所では、遺産相続など家族間のトラブルや、離婚の調停や裁判など夫婦間の問題に関係する家事事件と、少年の非行に関係する少年事件を取り扱っています。
一般の刑事・民事の裁判とは違い、非公開で審判や調停が行われます。家庭裁判所は法的な解決を図るだけではなく、事件の起きた背景や環境、関係者の人間関係までを考慮した解決を目指します。
その審判や調停のための調査をし、調査結果を取りまとめて裁判官に報告するのが家庭裁判調査官です。
家庭裁判所調査官の仕事
家庭裁判所調査官は裁判官の命を受けて家事事件においては調停、審判のための調査、報告書を作成します。事件の当事者、関係者と面談、事件を起こした動機や育った環境など、事件や問題の起きた背景をきめ細かく調査するほか、当事者に寄り添った解決策の提示も行います。
一方、少年事件においては在宅事件と身柄事件に分けられますが、いずれにせよ裁判官の命によって非行少年の調査を行います。在宅事件の場合は少年や保護者を裁判所に呼び出し、調査を行ったうえで報告を行い、それに基づいて裁判官が決定を下します。
身柄事件においては少年鑑別所に少年本人は収容されますが、審判が開催されるまでに数回少年鑑別所に出向いて少年と面接を行ったり保護者を呼び出したり家庭訪問をして家庭状況についての調査を行います。また、必要に応じて学校訪問や職場訪問なども行います。
対象の少年が保護観察中の場合は保護観察所から、児童相談所や児童自立支援施設の指導を受けている場合はそれらの機関からの情報も収集します。本人が少年鑑別所に収容されている場合には少年鑑別所職員とのカンファレンスも行います。
もちろん、警察署や検察庁からの非行事実や意見なども精査します。一方、少年には弁護士が付添人(少年の弁護をしながらも、少年の更生を目的として裁判に協力する立場)として選任されることも多いのですが、それとのカンファレンスも行います。
その上で「少年調査記録」の形にまとめて調査結果をまとめ、対象少年の処遇に対する意見を添えて裁判官に提出します。家庭裁判所の調査官とのやりとりを通して立ち直りのきっかけをつかむ少年も少なからずいます。
家庭裁判所調査官の受験方法
毎年行われる裁判所職員採用試験の総合職試験(家庭裁判所調査官補)を受験します。試験は大学院卒区分と大卒程度区分があります。
例えば大学や大学院を中退したとかいうことがあるかもしれませんが、最高裁判所が大卒・院卒と同等の学力があると認めれば学歴は必ずしも必要ではないとされています。
ただ、試験は法律、心理学、社会学など専門知識が問われるため、大学等で専門的に学んだ方がよいかもしれません。
参考:裁判所の採用案内
警察関係
警察関係で犯罪心理学関係の専門家が職務に当たっているのは、警察庁の付属研究機関である科学警察研究所、各都道府県の警察に付属する科学捜査研究所、各都道府県警察に設置されている被害者相談窓口などです。
警察庁科学警察研究所
警察庁科学警察研究所は科学捜査、犯罪防止、交通事故防止のための研究など、犯罪科学に関する総合的な研究を行っています。研究の分野は幅広く、生物学、医学、物理学などのほか社会学、教育学、心理学の側面からも研究が行われています。
プロファイリングや捜査のための面接方法の研究、犯罪防止や犯罪者の更生のための立案も行っており、犯罪心理学の知識を活かせる場もあります。 また、全国の警察・検察から依頼された証拠の鑑定のほか、全国都道府県警察署の科学捜査研究所の職員に対する研修も実施します。
警察庁科学警察研究所の受験方法
国家公務員採用総合職試験に合格し、官庁訪問で科学警察研究所を訪問、合格者に内定が出るという流れです。 募集は欠員が出た場合のみ。科学警察研究所には研究を行う6つの部がありますが、毎回すべての部、研究分野での募集があるわけではないので、どの分野での募集があるかは研究所のホームページを確認する必要があります。
各道府県警察科学捜査研究所
全国の県警本部で科学捜査の研究、証拠品の鑑定を行います。警察庁科学研究所の職員が国家公務員であるのに対し、各都道府県警察科学捜査研究所の職員は県の職員(地方公務員)です。
現場での捜査、証拠品の鑑定が主な仕事になります。ポリグラフ、プロファイリング、筆跡鑑定など各都道府県県警によって担当する分野は異なります。
各道府県警察科学捜査研究所の受験方法
各道府県の公務員試験を受験します。募集は欠員が出た場合のみのことが多く、毎年採用があるわけではないので注意が必要です。試験や採用の情報は各道府県の警察、県庁のホームページで確認できます。
各都道府県警察被害者相談窓口
被害者からの届け出で警察の捜査が始まることは多いのですが、犯罪の被害者やその家族はとても心理的に追い詰められた状況に陥ることもしばしばあります。
事件直後は緊張しきっていたのに、しばらく時間が経過した後に不安になったり落ち込んだりすることもあります。そうした被害者が相談できる窓口が警察には設けられており、必要に応じて被害者支援団体を紹介するなどもしています。
そうした相談窓口では公認心理士や臨床心理士が長年勤務していることも多く、欠員が出た場合に公募で採用されることが多いようですので、採用を希望される方は勤務を希望する都道府県の警察本部に問合せをしてみられることをお勧めします。
犯罪被害者等早期支援団体
犯罪被害者等早期支援団体は「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」に基づき、犯罪被害者を支援するために各都道府県の公安委員会が指定した非営利法人です。全国47都道府県に設置されています。母体は各地にある犯罪者支援センターで、犯罪被害者と弁護士や精神科医、臨床心理士などで構成される自助グループであることが多いようです。 犯罪被害に遭遇した被害者本人やその家族、被害者が亡くなった場合はその遺族などには継続的な支援が必要なことが多いのですが、中でも犯罪被害に遭遇した直後からの支援の重要性に注目して立ち上げられたのがこの活動です。
犯罪被害者等早期支援団体の仕事
警察、関係機関と連携しながら犯罪被害者への支援を行っています。具体的には電話や面接での相談、病院や裁判所への付き添い、被害者・遺族の自助グループの支援などを行います。
犯罪被害者等早期支援団体の求人は直接問い合わせを
ボランティアの相談員を募っているほか、臨床心理士と提携している所が多いようです。職員の定期採用はないようですが、関心のある人は各都道府県の犯罪者早期支援団体のホームページをチェックしたり、問い合わせたりするとよいでしょう。