平成30年に刑法犯、危険運転致死傷・過失運転致死傷等で逮捕、取り調べを受けた検挙人数は63万1,037人。犯罪や事故の加害者にも家族がいます。
犯罪の被害者や家族への支援の必要性が理解されるようになり、2004年には犯罪被害者等基本法が制定されましたが、加害者家族への公的な支援は2020年現在、ありません。
家族が犯罪者、加害者として逮捕された時、残された家族には何が起こるのでしょうか。加害者家族の現状、必要な支援について考えます。
令和元年犯罪白書
平成30年日本の刑法犯・危険運転致死傷・過失運転致死傷等検挙人数631,037人
加害者の家族の苦しみ
ごく普通の家庭が家族の起こした犯罪によって崩壊する―。犯罪の被害者と家族はもちろん、加害者の家族も想像できないような厳しい立場に立たされます。
家族が犯罪者として逮捕されると、自宅に押し寄せるマスコミの取材、見知らぬ人からのバッシング、ネットで個人情報をさらされるなどして、日常生活を送ることすら難しくなることも珍しくありません。
また、逮捕されたのが一家の大黒柱であった場合、収入が絶たれ、経済的にも困ることになります。
そして加害者家族の場合、犯罪の犯人の家族と世間から白い目で見られ就職や結婚が難しくなることも。
家族の犯行を止めることはできたのではないか、自分の責任ではないかという自責の念に苦しむ、マスコミによる過熱ぎみの取材による直接的な被害のみならず、同様の被害に遭った近隣住民から非難されることも珍しくありません。
これらの困難な状況に加害者の家族が自殺に追い込まれた事例もあります。
加害者家族を支援するところは?加害者家族支援の現状
犯罪の被害者や被害者家族は支援するための法律があり、十分とはいえないながらも支援を受けることができます。
しかしながら、加害者の家族は困難な立場に置かれるにもかかわらずほぼ支援はされておらず、公的な支援もありません。また、助けをもとめることも難しい立場に立たされます。
数少ない加害者の支援活動をしているのは宮城県仙台市のNPO法人WorldOpenHeart(ワールドオープンハート)。
加害者家族の相談に乗ったり、加害者家族同士が交流できる会を運営したりしています。
その他、東北弁護士会連合会は犯罪加害者家族に対する支援を求める決議を2016年7月に出しました。
このNPO法人を立ち上げた阿部恭子さんは、加害者家族支援の輪を全国に広げるための活動もなさっています。
講演会の日程や場所も紹介されているので、関心のある方は参加なさってみてはいかがでしょうか。
- 宮城県仙台市 特定非営利活動法人 WorldOpenHeartのHP
http://www.worldopenheart.com/index2.html
- 犯罪加害者家族に対する支援を求める決議 東北弁護士会連合会
ひだかあさん
アメリカなど海外の加害者家族支援
加害者家族への支援は日本ではほとんどありませんが、海外ではどうなっているのでしょう。諸外国の事例を見ると、加害者の子どもに対する支援が重視されていることが分かります。
- アメリカ
日本のような加害者家族に対するバッシングはない。
1998年にアーカンソー州で高校生による銃の乱射事件が起きた際、アメリカのメディアは加害少年の写真や実名を報道。
加害者の母親には電話や手紙が殺到したが、バッシングではなく家族を励ます内容だったという。
また、服役中の受刑者に対して面会に訪れた子どもにどう接するのか、出所後に家族とどう接するのかといったプログラムを受講させている。
- イギリス
NGO組織POPS「受刑者とその家族のパートナー」(Partners of Prisoners and Families Support Group)が電話や面談で家族からの相談を受けるほか、刑務所や裁判所への付き添い、家族への助言を行う。
加害者の子どもに対するケアも行っている。イギリス国内でも活動が認められ、家族から逮捕者が出た場合、警察が加害者家族にPOPSのことを知らせる。
- オーストラリア
受刑者の子どもたちを支援する組織COPSG(Children of Prisoner’s Support Group)が加害者の子どもたちに支援を行っている。
専門スタッフが放課後に子どもたちと一緒に過ごす、月1回親が刑務所に入っている子どもたちを集めた日帰りでの旅行、同じ境遇の子ども同士の文通のサポート、服役中の親に面会する際の移動手段の提供を行っている。
加害者家族が必要とする支援
困難な立場に置かれてしまう加害者家族に必要な支援について考えます。
- 逮捕、裁判の手続きなど司法の説明
普段の生活の中で、自分や家族が逮捕されることを意識して生活している人はいない。
「逮捕」「拘留」「起訴」「公判」など司法制度のことを知っている人は少なく、逮捕された家族がこれからどうなるのか不安を抱える。
逮捕された段階で弁護士の探し方や刑事手続きの流れなどを分かりやすく説明する支援が求められる。
- 経済的支援
加害者が父親である場合、加害者の収入で家族が生活していることが多い。加害者が逮捕、判決を受けて刑務所に収容されれば、加害者家族の生活は困窮する。
さらに、被害者への賠償、弁護士への支払いなど生活費以外にも出費が出てくる。
残された家族が仕事を解雇されたり、働きたいと思っても就職先が見つからなかったり、幼い子どもがいて働けないことも。
収入がない・見込めない場合は生活保護の申請の手助けなど金銭面でのサポートが必要になる。
- 住む場所
事件が大きく報道され、自宅にマスコミが殺到し近隣へ迷惑をかけた、子どもへの差別などの悪影響を避けるため引っ越しを余儀なくされることも多い。
また、収入が絶たれ家賃を払い続けることができない、被害者が近くに住んでおり、被害者に配慮して引っ越すケースもある。
一時は親戚や友人などに頼ることが多いが、いずれは引っ越さなくてはいけない。
引っ越しにも資金、保証人が必要なためサポートを必要とする加害者家族もいる。
- 子どもへの支援
マスコミが加害者の子どもが通う学校まで押し寄せ、子どもが転校させられるケースもある。
子どもが幼く、親の犯行を理解できない場合、残された側の親も子どもにいつ本当のことを話すか悩むことになる。
事情を理解できる場合は「犯罪者の子ども」と差別されたり、自尊心が損なわれたりすることも。
子どもに家族の犯した罪の責任はなく、健やかに成長できるよう支援が求められる。
- 心理的なケア
家族に裏切られたというショック、住まいや経済的な不安、被害者への自責の念などで加害者の家族も苦しむ。
「自殺を考えた」という加害者の家族は多い。自殺を防ぐためにも適切な心理、医療のケアが必要なこともある。
加害者家族をバッシングしても何も得られない
アメリカやイギリスなど諸外国に比べ、日本の加害者家族はバッシングを受けることが多いと指摘されます。
特に未成年者が罪を犯した場合、「親が謝罪しろ」という風潮があります。
しかし、逮捕された段階では家族にも事情が分かっていないことがほとんど。先述したような厳しい状況の中に加害者家族は置かれています。
バッシングをして家族が壊れてしまっては加害者の更生、被害者への償いも難しくなってしまいます。
また、冤罪の可能性もあります。冤罪であっても、被疑者、家族双方ともに苦しむことになります。冤罪であった場合、誰が責任を取るのでしょうか。
自分は犯罪とは関係ないと思うかもしれませんが、自分や家族がトラブルに巻き込まれる、事故を起こす可能性はゼロではなく、他人ごとではないことを心に留めておく必要はあるでしょう。
ひだかあさん
冤罪であった場合は…。そう考えると被害者家族はもちろん加害者家族にも支援は必要なことが分かると思います。
加害者の家族は追い込まれても自責の念から助けを求めることが難しい側面もあります。
まずは知ることから始めることが大切です。